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2009年7月31日 (金)

振り子の理論

  平成14年4月に中学校で新しい学習指導要領が完全実施されました。この時の指導要領の基本理念は、「新しい学力観」というものでした。そこでは、自ら課題を見つけ、自ら学び、自ら考える力や、判断力、問題解決能力といった力が重視されました。それまでの知識・理解を重視した学力に対して、こうした新しい学力を「生きる力」と総称しました。背景には、偏差値教育や過熱する塾通い、詰め込み主義への反省がありました。この「生きる力」を養うために、ゆとりある生活の中での体験活動が重視されました。こうして「完全学校週五日制」が実施され、問題解決学習として「総合学習」がカリキュラムに導入されました。その結果、各教科の授業時数と学習内容は大幅に削減されました。

  それからわずか1,2年後には早くも揺り戻しがありました。国際的な学習到達度調査(平成15年)で、日本の子どもの学力が落ちたという報告がその引き金でした。学力低下論です。3,4年後には完全に潮目が変わり、学校二学期制の導入(横浜では平成16年)や長期休業期間の弾力化(夏休み、冬休み等の短縮化)などで、各学校は一転して授業時数の確保に奔走しました。総合学習の見直し、土曜日の補習なども促されました。全国学力テスト(平成19年)も、こうした流れの中でほぼ完全実施されました。各学校は、外部評価を活用した学校評価を実施し、学校版マニフェストで成果の数値化と情報公開が求められました。通学区域の弾力化など、学校選択の自由裁量も拡大されました。規制緩和と自由競争をベースにした、小泉構造改革路線の教育版と言ってもよいでしょう。ゆとり教育への反省を背景にしたこの流れの延長線上には、次の新しい学習指導要領が既に位置しています。(中学校で平成21年度より移行実施中)

   自由競争の歪みや弊害は、既に所得格差として実社会に顕在しています。各自治体や各学校が学力競争に走って、今度は地域や学校による学力格差が露呈してきました。大阪府の橋下知事はカッカして、府の教育委員会の尻を蹴飛ばしています。教育委員会は学校現場の尻をたたくでしょう。こうして最後のしわよせは子どもにいくことになります。格差社会の歪みが教育の世界にも及ぶわけです。

  これまでの流れをざっとなぞりながら考えてみましたが、さてこの先はどうなるのでしょうか。詰め込み主義や過度の競争心への極端な反省に、再びまた戻るのでしょうか。振り子に振り回される教育現場は更に疲弊し、子どものストレスは高まるばかりです。大切なのはバランスだと私は思います。

<参考>
「守るべきものは何なのか」2010.10.1

http://nobu-chin.cocolog-nifty.com/blog/2010/10/post-d05c.html
「大丈夫か、学校」2009.11.20
http://nobu-chin.cocolog-nifty.com/blog/2009/11/post-a418.html
「右往左往(2学期制か3学期制か)」2014.8.15
http://nobu-chin.cocolog-nifty.com/blog/2014/08/post-235d.html

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コメント

amigoさんへ

コメント、有り難うございます。
鳴り物入りだった「総合学習」を「布教するため」、各学校を回った指導主事たちは、梯子を外されてしまいました。ここにも迷惑を被った人たちがいます。      くりりん

時間軸に沿った日本の教育行政の変遷の説明はよくわかりました。そしてあらためて考える時間をくれました。ホントに節操の無い揺れですよ。これからはまさに「それがどうした」という深い洞察と信念が求められますね。特にマスコミが伝える「カッコ良く見える行動」や「勇ましく思える発言」には、眉に唾をつけておきたいと思います。

マリーナさんへ

コメント、有り難うございます。
計測が可能な学力は、その子どもの持っている学力の一部にしか過ぎませんよね。「学力低下論」が起きた時、文科省が、「それがどうした」と言ってくれれば、もっとすっきりしたでしょう。

      くりりん

物事が定まらずに右へ行ったり、左へ行ったりするのは良くあることです。
今の時代で求められている学力とは一体何なんでしょうか。全てのことがインターネットで検索でき、通常の計算であれば電卓で簡単に答えが出せる時代に必要な学力とは何なんでしょうか。
私は左右にブレません。国際的な学習到達度調査の結果がどうであれ、学力とは「考える力」であると確信してます。

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